会所蔵『醫學正傳』について
『醫學正傳』全八巻 8冊 線装〔明・正徳十(1515)年頃成書〕
著者:虞搏グタン(1438~1517)。字 天民。号 花渓恒徳老人。
本書の刊記はありませんが、
1. 巻之一の内題は「京板校正犬字醫學正傳巻之一(大作犬)」である。
2.「醫學惑問」全五十二條(ただし五十一條とする作もあり)。
3. 巻之三の内題「醫學正傳」は「醫斈正傳」となっている。
4. 本文二十二丁目の〔呑酸〕は本来二十一番目に位置すべきだが、三十一番目として誤記されている。
5. 本文版心「二十四」丁の次が「又二十四」となっている。
6.その他、目録および本文において、「一」丁を「乙」丁と記す箇所がある。
以上の点から、本書は早稲田大学図書館蔵本と同様の特徴を示しており、
寛永十一年(1634年)版の版本であると考えられる。
(樋口陽一記)
会所蔵『千金方』
1. 書誌概説
『備急千金要方』は唐代・孫思邈(581?–682)による全30巻の総合医書(成書:640–660年頃)。
書名は「人命は千金より貴い」に由来し、病理・湯液・鍼灸のほか、養生・服餌・按摩・調気・房中・呪術まで幅広く収載する。引用出典の表記は少なく、著者の臨床的見解・創見が多いのが特徴。
2. 古典鍼灸研究会所蔵本
外題:元版翻刻 千金方/内題:重刊孫眞人備急千金要方
形態:全31冊(目録1冊+本文30巻)・線装。版式は半葉10行・1行24字、四周双辺・白口・単魚尾。
目録構成:綱目(總目)4葉、目録57葉。目録第1葉は「乙」起こし。
蔵書印:表紙裏に「泉上樽城武」黒印、各巻冒頭・巻末に「杉本」黒印、さらに当会蔵書朱印。
各巻の版心丁数は「一」ではなく 「乙」から始まる。眉欄に校注を付す。
3. 版本系統の推定
当会蔵本の目録巻は序〜後序を欠き、綱目(總目)から始まる体裁で、
京都大学図書館・富士川文庫蔵『元版翻刻千金方』の目録巻構成・版心下の漢数字(19〜22)・第57葉のくずし字等と符合。
以上より、本書は天明五年(1785)西宮園重刊本または寛政十一年(1799)京都林喜兵衛発行本と同系の「元版翻刻」系重刊本に比定できる。
4. 目次(綱目)概観
緒論・婦人方・小児方・七竅病・風毒脚氣・諸風・傷寒方・五臓六腑各門・痔漏・解毒雑治・備急・食治・養性・平脉・鍼灸上・鍼灸下 ― 計三十一門・二百二十三類を収める。
5. まとめ
所蔵本は、体裁・目録構成・印記・校注などの書誌的特徴が富士川本と一致し、
18世紀後半の京都刊「元版翻刻」系重刊本として位置づけられる。近世医家の実用に供された貴重資料である。
参考
『千金方研究資料集』解題・研究篇(東洋医学善本叢書15)、『漢方医学の源流』、岡西『中国醫書本草考』、 『経籍訪古志』、京大図・富士川文庫蔵『元版翻刻千金方』。
(樋口陽一記)


